ただいまオン・エア中、原住民テレビ

この原住民族カルチャーガイドは当会会員で、都留文科大学教員の山本芳美さんが2008年に執筆したものです。2014年に多少加筆していますが、主な記事内容は2008年2月時点のものです。

 

ただいまオン・エア中、原住民テレビ

 

台湾多チャンネル事情

 台湾に行く楽しみの一つは、テレビにある。いくら多チャンネル化の時代といっても、日本ではケーブルテレビは契約料が高いし、仕事がある身なら四六時中見ることはかなわないのでもったいない。だが、台湾に行けば話はべつだ。敷設率80パーセント以上の有線テレビのおかげで、ホテルや友人の家で80チャンネルから100チャンネル以上の放送が楽しめる。各家庭の有線放送契約料は550元前後(日本円にして2千円程度)と、物価の差を考えても割安感がある。

多チャンネルでは番組制作側も大変であり、連続ドラマでは夜8時から9時、月曜から金曜まで5日連続で放送される場合もある。ドラマの中身も毎回15分ぐらいしか新しいエピソードがでてこず、CMが終わるたびに番組でその日の見せ場が繰り返し流される。「話をひっぱるなー」と思うのだが、週一回の放送では、移り気な視聴者をとどめられず、毎日の放送となるのだそうだ。当然、台湾だけでは番組制作は間に合わず、日本や韓国など他国の番組を輸入して映し出す。最近では、中国大陸で制作されたドラマ放送も増えてきた。

日本の番組で初期に受けたのは、『志村けんのだいじょうぶだぁ』に『欽ちゃんの仮装大賞』。私がはじめて台湾に長逗留した1997年には、誰もが知っていた覚えがある。話芸を中心とした北野武や明石家さんま、日本でいま人気のスタイルの漫才やひな壇トークは翻訳で面白みがうまく伝わらないためか、日本製のバラエティー番組は不振だ。志村けんの番組は、閩南語で吹き替えたことも台湾で受け入れられた原因といわれている。仮装大会もしぐさや動き、メイクなどのわかりやすさが受けた要因だったのではないか。仮装大会は、しょっちゅう再放送されている。このほか、日本製の番組でよく放送されるのは旅やグルメ番組で、2000年ごろ一緒だった台湾人ルームメイトは食べている場面になると、「おいしーい」と日本語でテレビ画面に声をかけていた。

日本製ドラマは、『東京愛情故事』(『東京ラブストーリー』)、『一零一次求婚』(『101回目のプロポーズ』)、『愛情白皮書』(『あすなろ白書』)など、フジテレビ系のトレンディードラマなどが放送され、歓迎されてきた。特に、ティーン向けドラマの『いたずらなKiss』(日本ではテレビ朝日系で1996年放送)は一種の社会現象になった。集英社の雑誌『別冊マーガレット』に連載された漫画が原作のこのドラマは、今では日本の少女ユニットspeedが主題歌を歌ったことしか覚えていない人が多いだろう。『いたずらなKiss』は、当時、台湾の中高生たちがとても胸ときめかせたドラマであった。というのは、台湾ではあまり多様な年齢層に向けた番組がなかったため、日本ではすでに当たり前になっていたティーン向けラブコメが新鮮だったからだ。だから、初めて山に行ったらタイヤルの女子中学生たちが、主演俳優の柏原崇さんについて、「日本で人気あるの? 彼、大好き」と英語で話しかけてきた。

その大ヒットの夢をもう一度、というわけか、2005年にはリメイク版の台湾ドラマ『惡作劇之吻』がおめみえした。現在は、日本のドラマはすぐに字幕がつけられてほぼ時間差なく放送されている。また、最近では、少女漫画が原作となったドラマが台湾で制作されている。韓流ドラマに対抗してか「華流ドラマ」と名づけられて、日本に逆輸入されるようになっている。『惡作劇之吻』のリメイクもその流れで、日本でも放送された。なかでも、『流星花園』(『花より男子』)は、アジアで大人気の男性アイドル4人組F4を生み出したばかりか、香港、タイ、フィリピン、日本でも衛星放送のほか深夜ながら地上波のTBSで放送されて大人気となったことはよく知られている。

 

台湾テレビ放送の歴史

原住民テレビの話のまえに、ここで少し、台湾のテレビの歴史とテレビ事情を紹介しておこう。テレビ放送の開始は1962年。台視、中視、華視と順に3つのテレビ局が開局して、長らく「三台」と呼ばれる独占状態が続いた。ところが、1988年に衛星放送受信アンテナの取りつけの許可を得てから有線放送が爆発的に普及した。その以前は、「三台」がおもしろくないからとヤミで勝手にケーブルを引いてビデオになっている映画などを流していたのだが、追認される形で1993年に有線テレビ局とその接続業者が正式に開業した。有線放送は、「第四台」(「第4チャンネル」)と呼ばれ、香港のスターチャンネルや日本の衛星放送が受信できるようになるなど、多チャンネルの時代になる。1993年末に、日本語の放送と日本の番組放送が解禁され、1994年に「おしん」(1983年4月から3月にかけて、NHKの朝の連続ドラマとして放送)を中視が放送した。これが大当たりとなり、各局が日本の番組を次々に放送していったというのが日本製番組の放送史。だから、「哈日族」(ハーリーズー 日本大好き族)の出現や、テレビにおいて日本語と日本で制作した番組、日本語のCMが放送されるようになったのはそう昔のことではない。

あまり知られていないけれど、韓国ドラマの隆盛は、日本よりも台湾が2年以上先行している。「哈韓族」(ハーハンズー 韓国大好き族)とよばれる若者たちをうみだすことにつながった。韓流ブームは、実は台湾ではじまり、アジアに広がっている。それには、少々調べたら、二つの事情があった。台湾では放送番組に基本的に北京語の字幕が義務づけられているので、その後アジアの別の地域の言語に翻訳して放送するのもたやすい。また、韓国では台湾にまずドラマを流して、反応をみて他の地域に輸出しているという。だから、韓国ドラマの放送や映画の上映は台湾のほうが日本よりはやい場合もあるので、最新作のチェックは、北京語とはいえ字幕のついている台湾製DVDのほうが便利だ。

現に、ベトナムに留学した日本人の友人が、台湾で放送された韓国ドラマのベトナム版を観たという。お互いに台湾とベトナムで観た韓国ドラマの話をしていたら、友人いわく「でもね、ドラマの吹き替えは男女問わず、当てる声優は一人だけなのよ」。しばらく画面から目を話していたら、誰が話しているのかわからなくなるとか。さすがに台湾ではそんなことはなく声優さんは上手で、特にアニメの「櫻桃小丸子」(ちびまる子ちゃん)などは日本版の声の雰囲気そのままに演出している。

 

プロレスとおばさん

台湾では視聴率が5パーセントあれば「高視聴率」と評される。すべてのチャンネルの視聴率の平均は1パーセントから2パーセントである。リモコンでチャンネルを変えていくと、良かれ悪しかれ、今の台湾が次々に映し出されてくる。投資のカリスマが株価のゆくえを占うチャンネルが数種あるのが、経済活動至上の台湾らしい。キャスターは熱く、どんな銘柄に投資したらいいかを語っている。しばらく観ていると、なんとなく「株屋」という単語が頭に浮かんでくる。

ハリウッド映画に香港映画、何でもござれの衛星放送のスターチャンネルは、今も健在である。日本の番組専門チャンネルは4つほどあり、NHK国際放送が大みそかに紅白歌合戦を流したら、放映権を買ったらしきあるチャンネルは、男女各一組が歌ったらCMをはさみ込む形で元旦から数日間、午後いっぱいにかけて映し出す。放送につきあっていたら、紅組と白組の勝敗など、日本にいるときよりどうでもよくなってくる。

日本のアニメとバラエティー番組の専門チャンネルもあり、そこで放送されている日本のプロレスは、なぜか原住民族のおばさんに人気がある。苗栗県の山中にあるタイヤルの農家に泊めてもらったら、白髪がいくぶんまじった60代少し手前のおばさんが午後いっぱい女子プロレスを見続けている。なぜ?と聞いてみたら、「元気がでるから」と一言。おばさんはmどたんばたんと取っ組みあうリングでの肉弾戦をじっと見つめている。日本ではその年ごろの人々は、もう少し脂が抜けている。日本の中年女性は、プロレスに夢中になるよりは、芸能界やスポーツ界で王子様のような容姿の男性を追いかける夢見る少女タイプが多いはずでは……。かくして、テレビから異文化を知ることになる。

お経の合唱を背景に色つやのよいお坊さんや尼さんが仏法を説くチャンネルもあり、台湾の仏教徒の多さと浸透度を示している。しかし、神妙に教えを説く仏教チャンネルのひとつが、深夜12時をまわると突如、霹靂布袋戯(ピーリープータイシ ※コラム参照)のチャンネルにかわってしまったのには驚いた。ぼうぜんとしていたら、そういえば似たようなことを留学中に体験していたことを思い出した。有線テレビ会社は、どのような都合かわからないがいきなり放送していた番組を打ち切って別のチャンネルに移してしまうのだ。ある日、テレビをつけたら『CRYING FREEMAN』(1996年公開)という映画をやっていた。日本の漫画を原作にした映画で確か龍をタトゥーをした主人公がでてくるはず、と思って数分観ていると、突然昼12時から通販番組がはじまってしまった。きょとんとしていると、「本日午後12時からこのチャンネル番号は、○○放送に変更します」と字幕がでてきてようやく事情がわかった。

 

ささいなことも、即、全国ニュース

さて、台湾のテレビでもっとも台湾らしいのは、24時間けたたましく、台湾のすみずみまで報道する勢いのニュースチャンネルである。あたまのおかしい男がすっぱだかになって踊る台湾の片田舎にある廟の監視カメラに残された映像と国際紛争を同列に報じるのが、台湾のニュースチャンネル。ニュース番組で2003年にイラク戦争の開戦が報じられたとき、たまたま台湾に来ていた日本の友人は、「キャスターがアラブ人の扮装をして、ニュース読んでいる」と驚いていた。キャスターがコスプレするのは当たり前で、放送コードの違いもある。子どもたちも観ている夜7時台に、「男性泌尿器学会が催されました」として、男性器の勃起の仕組みが詳細な図解入りで堂々と画面に映し出されていて仰天した。しかも、24時間放送なのでこのニュースは何回も放送されるのだ……。まさに、食事中のお茶の間がきまずくなりそうな話題だがこれはOKで、女性の裸の胸がテレビに映るのはご法度とか。台湾の報道の自由度は世界でも高いといわれるのだが、放送コードのゆるさにも反映しているのだろうか。

ニュースチャンネルの大部分を支える市井のささいな出来事が拾えるのは、町なかを中継車がぐるぐる走り、警察無線を傍受するといち早く駆けつけるからだとのうわさがある。確かに、警察無線でもあてにしなければ、どこかのクラブが薬物使用で一斉捜索されて、そこにたまたま遊びにきていて取り調べ対象になってしまった某大学社会学の修士課程の学生に、マイクをつきつけることもできないわけである。メディア学専攻(!)だという彼女が「こんなことで取材されるとは」とキレるのをカメラは意地悪く映し出す。ちなみに、マイクの先端にテレビ局の大きなロゴがくっつけてあるのは、囲み取材のときにそれぞれ目立つようにするためである。

 

延々と続く激論

 コール・イン番組も、現在の日本の放送体制では考えられない。その時々で世論を沸かす時事問題に関して、識者が激論を交わし、視聴者がライブでばんばん電話をいれて意見を言ってくる。台湾のラジオもテレビと同じだ。当時住んでいた部屋の大家さんの紹介で台湾のラジオ番組に出た時も、コール・インのコーナーがあった。ちょうど、2014年現在、稼働させるかどうかで議論のある台湾第四基目の原子力発電所を増設するかどうか論争がまきおこっていたときだった。早速、ラジオの視聴者から、番組の内容にはまったく関係のない質問が浴びせられた。質問は「国際結婚が増えているが、原発をつくるような台湾人のところに、広島と長崎の原爆の記憶をもつ日本人が嫁にくるだろうか?」というもの。とっさにどう答えたかわすれてしまったが、そもそも私がラジオ局に呼ばれたのは、日本の年中行事の話をするためだった。視聴者の方からの質問は、かなり話の内容と食い違っていた。

ここまで書いて思い出したので、ついでに書いておくが、日本ではコンドームのCMはおもわせぶりなイメージCMで、深夜にせいぜい数本のCMがながされるだけ。しかし、2000年ごろの台湾では実にテレビに堂々と登場していた。夜8時台のコメディタッチの刑事ドラマで、娼館を手入れした女刑事が使用済みコンドームを持ち上げ、客として居合わせた実の父親に「ヤッテたでしょ」と叫ぶ、日本人にとっての衝撃的ラストなんてものが実際にあったのだ。

ここらへんの性のおおらかさは、台湾の町なかを歩いていると、突如、「情趣精品」というピンクのネオン看板がまたたいている風景に重なっていくる。情趣精品とは、日本語で訳せば「夜のためのムード小物」、平たくいえばセクシーな下着とか大人のおもちゃが置いてある店である。店のショーウインドーには、すけすけレースの深紅のネグリジェをまとったマネキンをこれみよがしに置いている。夜にはさらに赤っぽい照明に照らし出されて、実に艶やかで怪しげな雰囲気になる。友人いわく、「こちらで仲良くなった日本人のお友だちの旦那さんは台湾人やんか。食べ物のお店やってるねんけど、隣が情趣精品の店なのに全然気にしてないねんて」(言葉からわかるように、彼女は大阪出身)。おそらく、「隣りは隣り、うちはうち」という感覚なのだろう。

 

原住民族チャンネル

ともかく、まさに百花繚乱、よくいえば自由奔放で、何ごともゆるやかで大らかな台湾テレビ界において、「原住民族電視台」(「原住民族テレビ」、略して「原民台」ユェンミンタイ)もしっかりと根づいている。台湾には複雑な族群(日本語では「エスニックグループ」の意味)関係を反映して、閩南人、客家人、そして原住民族の人々のためのチャンネルがある。2003年より250万人に満たない客家人のために客家電視台(「客家テレビ」)が設けられ、2005年からは原住民テレビが開局した。チャンネルは16。現在、台湾公共放送機構(Taiwan Broadcasting System、略して「TBS」。日本の放送局とは関係ないので念のため)の一チャンネルである。この放送局が現在傘下にしているのは、華視、客家、公共電視(「公視」)、台湾宏觀電視と原民台である。

公視は13チャンネルで、一言でいえば台湾のNHKにあたる。でも、原一男監督が撮ったドキュメンタリー映画『ゆきゆきて神軍』を北京語字幕付きで深夜ながら放送していたりして、あなどれない。台湾宏觀電視は、海外に在住する台湾人のための衛星放送で、北京語と閩南語と英語によるニュースと天気予報をはじめ、子ども番組や他局で制作した人気バラエティー番組の再放送などが放送されている。総統選挙の政見放送などは、オンライン放送もする。

この放送局は、日本のNHKのように受信料を視聴者から徴収するのではなく、行政局からの交付金と自主財源で財団法人の公共電視文化事業基金会が運営している。現在の政府からの交付金は12億元(約36億円)。自主財源は、企業からの賛助金と個人からの寄付をあわせて3億元(約9億円)という。TBS傘下のチャンネルでは番組予告や公共広告はあるが、CMはない。企業の各番組の終わりに、協賛企業名のクレジットが15秒から30秒流れるだけ。たとえば、公視に年額900元(約3千円)以上寄付すると「賛助会員」となり、メンバーカードと雑誌『公視之友』が一年分送られるほか、DVDなどを1割引で購入することができる。児童会員と栄誉会員制度もある。ホームページでは、雲門舞集の林懷民氏とノーベル賞学者の李遠哲氏なども賛助会員と紹介されている。この放送局が設立された背景には、日本やイギリスのような公共放送が台湾にも必要だと1980年代から提唱されたことがある。当時の国民党政権は「3台」を管理下においていたため、「報道の偏り」を心配する声があったのである。そこで、1992年に番組制作会社が設立され、1998年に公視の放送がはじまった。そして、2006年7月1日からTBSネットワークが確立したのである。

 

番組構成は?

原民台は、公視で放送時間帯を変えつつも1時間枠で放送されていた『原住民新聞雑誌』という原住民ニュース番組とやはり1時間のコール・イン番組『部落面対面』から生まれて、両方ともすでに500回以上放送されている。この二番組は、現在も原民台が本放送し、公視が再放送している原住民の角度から台湾を切るもの。1998年7月3日より放送が開始された『原住民新聞雑誌』は、毎回二つの特集のほかに各集落での祭りやイベント、原住民の角度からみた不正、政府や企業などへの抗議行動までその週におこったニュースを取り上げる硬派な報道番組である。第1回放送からのすべてのニュース内容が整理されてインターネット上でデータベースとして公開されている。

1999年7月3日より放送開始の『部落面対面』は、集落や都市に生活している原住民族がさまざまに直面する問題のなかから毎回テーマを決めて徹底的に討論しようという番組で、「原住民的事 是大家的事 大家來談原住民的事!」(「原住民のことは皆さんのこと。皆さん原住民の話をしましょう!」というのが番組のキャッチフレーズ。放送回ごとに司会と出演者は異なり、政治経済をテーマに、総統や国会議員にあたる立法委員の選挙のゆくえ、その選挙結果が原住民にあたえる影響、原住民の経済をいかに向上させるか、日月潭観光とサオの生存などを話しあう。また、「糖尿病が原住民を絶滅させる?」、「どうなる原住民部落のIT化」、「原住民記念日が記念するのは何?」、男性未婚率の高さをテーマにした「どうしてパパになりたくない?」などなど、テーマは硬軟あるものの白熱する話題が並ぶ。過去の内容は、放送200回を機にシリーズ書籍として発売されている。本の解説では、『部落面対面』は「現在までただ一つの原住民のためのコール・イン番組」でこれまでに三千人が番組の討論に参加してきたとか。こちらも現在、インターネットで過去に取り上げられたテーマが公開されている。

 原住民族テレビは、台湾の原住民族文化を中心に伝える24時間放送のチャンネルとして華々しく2005年7月1日に開局した。世界にある先住民族専門チャンネルは、ほかにニュージーランドのマオリ向けとカナダの先住民族の2局しかない。それまでに、開局準備は着々と進められていて公視の『原住民族新聞雑誌』では、原住民のスタッフの募集や選考、研修の模様が報じられてきた。当然、公視のネットワークに入るものと思っていたのだが、8月23日には民放のTVBS、台視などが争ったあげく東森テレビが経営権を取得した。東森テレビは、アメリカやアジア各地に番組を提供する台湾の一大民法ネットワークで、ショッピングや子ども、ニュースなど各専門チャンネルを有していた。傘下に原民台をおさめたのは局のイメージアップがあったのだろう。東森のもとで基礎づくりをした原民台は2007年1月から客家と台湾宏觀電視とともに正式にTBSの傘下に入り、現在、東森は原民台の番組制作に協力している関係という。

 東森時代の番組で在台中にたまたま観たものは、子どものためのブヌン語教室だった。あまりテレビ慣れしていない感じの民族衣装を着たブヌンのおばあさんが出てきて、お兄さんお姉さんとともに「これは北京語では蝶で、ブヌン語では○○といいます」と指さし、お兄さんお姉さんが単語を繰り返すというもの。ちょっとしたお遊戯をしたりして、なかなか味わいはあったのだけど、「うーん、これで子どもが単語を覚えるだろうか」、と思えるような場当たりさがあった。

 2007年末に台湾を訪ねたら、原民台では『大家話族語』(「みんなで原住民族語を話そう」)という1時間の語学番組が始まっていた。原住民族諸語の言語テスト(別項に紹介)の開始を受けて、たとえば「建和地方のプユマ語 第一段階第一課から第十課」とか、「ヤミ(タウ)語第一課から第十課 総復習」など日替わりで本格的な語学番組が放送されている。番組冒頭では、簡単にプユマがどこにあり、いくつ方言があるのか、人口などがアニメで紹介される。それから、各課がはじめられる。一課は2分ほどの会話、単語と発音の練習、その対話練習、小テスト、さあ一緒に話しましょう、が一通りの流れで全部で5分。立て続けに10課が1時間で学べるようになっている。

 原民台で一般のチャンネルと特に異なっているのが、ニュースと天気予報である。各民族の言葉でニュースを伝えるのが「族語新聞」。たとえば、ある日のニュースでは、サイシャットの女性キャスターと、同じくサイシャットのコメンテーターがサイシャット語と北京語を交えながら、ブヌンの双龍部落でおこった問題を伝え、ナレーションがヤミ(タオ)語という複雑さ。ナレーションの言語とニュース内容は関係なく、アミ語やタイヤル語などのニュースの時間ごとにナレーションで用いられる言語が切り変わる。英語でも原住民族のニュースは放送され、YouTubeでも公式版のニュースが発信されている。

天気予報も、日月潭や阿里山、花蓮、太魯閣、台東、蘭嶼など原住民族の居住地区が中心になっている。番組の間に入るのは、各民族の紹介や工芸品など原住民族芸術の紹介、各民族の言葉で読み上げられる原住民族基本法である。土曜日の夜10時から放送されている90分の音楽番組『超級原舞曲』では、いくつかコーナーがあり、芸能界で活躍する原住民族アーティストによるロックやポップスのライブのほか、各民族の若者たちが結成したユニットによるダンスが披露されている。伝統的な踊りを現代のヒップホップに生かそうというわけで、若者たちは「サイシャットの鈴を鳴らす振りで腕と腰をシェイクしま~す」と今どきの音楽に乗って踊ってみせる。第一回の放送ではアミの人気歌手張震嶽が登場し、プユマの張惠妹(A-mei)が出演もしたほか、李泰祥の音楽などが特集されてきた。

 ほかには、レポーターが各部落をめぐってその土地の美食や料理、作り方を紹介する『Ina的廚房』(『Inaの台所』Inaはアミ語で太陽の意味)。各部落の長老から伝統的な知恵を学ぶ『智慧的森林』(『知恵の森』)に、その児童向け番組の『大地的孩子』(『大地の子ども』)。昔から伝えられている原住民族の知恵にどのような科学的知識が生かされてきたかを、科学の先生と司会のお兄さんが部落の長老を訪ねて学び、子どもたちと実験してみせる『科學小原子』などがある。私が覚えている放送終了番組では、原住民族のなかの弁護士や歌手など成功した人にインタビューし、これまでの人生をふりかえってもらうもの。民宿経営のための予備知識、教育など原住民族に関係する話題をとりあげて、生放送で専門家が視聴者からの質問に答える生活コール・イン番組などがあった。

 

視聴者の反応は?

さて、肝心の台湾の人々は原民台をどう観ているのだろう。漢民族では「ほとんど観ていないか、観たことがない」というのが一番手っ取り早い答え。多チャンネル化で、皆それぞれが好きな番組を観ていることもあり、もしも視聴率が5パーセント取れたら大ヒットというのが台湾の現状である。

では、原住民族ではどうだろうか? 2007年末に台東の南王プユマの林清美さん宅に遊びに行ったら、清美さんの甥で研究者・文学者として活躍する林志興さんがいた。原民台について聞いてみたら、「観ているよりも、出ていることが多いね(笑)。ま、週3回観ればいいかな。出ているところを僕自身は観ないけれど、友だちが『おい、おまえ出てたぞ』って電話してくるな。理想的には原民台は、ニュースと、伝統文化や歴史、生活、経済、特に生業に寄り添ったものなんかをとりあげる教育番組や生活情報番組を中心にすべきだと思うんだ。娯楽番組はほかにテレビ局があるからいらないはずなんだよ、理想的にはね」。林志興さんによれば、原民台に今後どのような番組づくりをしたらいいか聞かれ、台北など都市の事柄を中心にするのではなく、部落の角度から原住民族を取り上げていくべきとの意見を述べたという。その意見をふまえて、2007年に原民台の支局は花蓮から、林志興さんが勤める台東の国立史前博物館に移ってきたという。

そこまで話すと、林志興さんはその場にいた支局で「大家説族語」に出演している大学生の次女(当時)を呼び、原民台の感想について聞いてくれた。お嬢さんが「まあ、おこずかい稼ぎね」と言ったところで、お父さんに「まじめに答えなさい!」と怒られた。「うーん、原住民族としての責任感から、テレビをつける時はまず原民台にしておもしろかったらそのまま観ている。つまらなかったら、チャンネルを変えるという感じかな」と話してくれた。大猟祭の前夜で準備のため、いろいろな人が林清美さんの事務所に集まっていて、もう一人プユマの20代の青年がいたので聞いてみた。彼いわく「僕はよく観てる。東森からTBSにかわってから、番組はずいぶんよくなったね」だそう。私も同感。

 やはり、2007年末にお会いしたサオの事務所で働いているタイヤルの40代の女性によれば、「再放送が多いわね。番組によってはいいものがあるけど、だからあまり観ない」との話。南投県政府原住民局の50代の局長さんに意見を聞いたら、「見せたい番組のある時間は子どもたちは寝ているし、年寄りは酒飲んでいるしな。ハハッ」と冗談を返してきた。その上で、「原民台で原住民族の福祉や教育のための番組放送をするのは理想だけど、あまりうまくいっていないと思います。自分たちの民族がでていたらそれは観るけど、あとの母語教室なんかは、他の民族を観てもよくわからないから、チャンネルを変えてしまいますね」との話だった。パイワンの年配のインテリ男性に聞いてみると、「自分たちの文化しか知らないから、他の民族の文化がどうなっているのか勉強するのに役立っているよ。民族が多いから、いまのままでは足りないとおもう。もう一つチャンネルをつくる必要があるね」。 と、まあ意見はさまざまなのだ。

 世界で三番目の先住民族の先住民族による先住民族のための放送局。まだ生まれたばかりの原住民族テレビは、これからも試行錯誤をしながら番組づくりをしていくに違いない。でも、人々の話を聞いていたら、原住民族テレビを一番気楽に視聴できるのは、どの言葉で放送しても同じ程度にしかわからない異邦人かもしれないとも思った次第。

 

コラム 霹靂布袋戯

台湾のテレビのことを書いていると本当に話題がつきないのだが、仏教チャンネルから突如入れ替わった番組、布袋戯について紹介しておこう。私が子どもの頃には、『紅孔雀』や『プリンプリン物語』など連続テレビ人形劇がNHKで放映されていたものだが、現在は人形劇は当時ほどの人気はないようだ。対して、台湾では今でも布袋戯(閩南語ではポテヒ)と呼ばれる人形劇の人気が高い。もともと、布袋戯は廟などで神様に奉納されたり、町かどで上演されたりするなどで、今から400年ほど前から親しまれてきた。土産物屋では、今もとぼけた味わいの指人形が手に入る。なかでも、テレビ放送が30年以上続く霹靂は台湾内外で知られている。

霹靂布袋戯は、一言でいえば「古装武侠」もので、日本でいえばコスチュームプレイの時代劇にカンフーやチャンバラの要素が入っている。攻略本や写真集のほか専門誌が毎月発売されており、辻村ジュサブローさんが作っている人形に似ている長いサラサラヘアーの登場する美男たちそれぞれのファンクラブがある。体長1メートル近い人形をコレクションする人もいれば、劇中のコスプレをするファンもいる、というのは日本のアニメファンに通じる展開である。2001年には映画化されており、その映画『聖石伝説』を東京都写真美術館で「アジア人形劇」の作品がシリーズ上映された時に見に行った。テレビ放映作品よりも映像は派手で凝っていて、SFXを駆使し、水上を爆発が走るは、閃光とともに岩がばんばん割れるは、見せ場の連続である。登場人物同士が戦う場面ではワイヤーアクションも駆使している。細かなカット割りが重ねられたアクションシーンでは、いったいどのような戦いがおこなわれたのかさっぱりわからなかった。

しかし、いくらハイテク化しても、美女から英雄、悪役、妖怪など、すべての登場人物の声をあてるのは「八音才子」、つまり八色の声をもつ天才と言われる制作者の黄文擇氏だけなのが、なんとも手づくりの温かみを感じさせる。手づくりといえば、人形操作もCG効果は使わず、人間の手だけでおこなっている。野外ロケでも人形操作師のために深さ150センチの穴を掘ったが、条件がわるければ操作師たちは60センチから90センチの溝に横たわることになる。ひどいときには、操作師が水中で息を止めて人形を支える中、上流のガチョウ養殖場から流れてきた肥料やら排泄物やらで、皆さん皮膚病になってしまったとか。ここまでやるか、と思うのだが、そのこだわりぶりも台湾の物づくりの姿勢のあらわれだ。

 

 

もっと知りたかったら

「聖石伝説」(霹靂布袋戯に関する日本語解説ページが充実している)

movie.pili.com.tw/jp/index.htm

 

映画『聖石伝説』日本版DVDの紹介

www.bandaivisual.co.jp/seiseki/index.html

 

布袋戲の白蓮楼 ~布袋戲と清香白蓮 素還真のファンサイト~
www.naksatra.com/pili/

 

「原住民族電視台公式サイト」(北京語ほか原住民族諸語)各番組のオンライン視聴のほか、原住民族のニュースが読める。

titv.ipcf.org.tw/

 

『原住民新聞雑誌』と『部落面対面』ウェブサイト(その週に放送された音楽や子ども向け番組、語学番組などがオンラインで視聴できて便利。北京語ほか原住民族諸語)

www.pts.org.tw/php/news/abori/main.php