映画で知る台湾原住民族

この映画リストは会員の山本芳美さんが、2008年に執筆したものです。最近の公開作については順次追加していきます。

 

映画で知る台湾原住民族

台湾や日本では台湾原住民族が登場する映画がつくられている。ここでは、未見なものも含めてメジャー作を中心に映画を紹介したい。

 

『サヨンの鐘』(75分)

現場での即興的な演出によりアクションをさりげなく組みこんだ映画を撮ることで定評のある清水宏監督のもと、1943年に台湾総督府、満州映画協会、松竹によって製作された作品。主演は李香蘭(のちに山口淑子と改名)、近衛敏明、大山健二ら。現在の視点からみれば、国策的、国威発揚的ストーリーとなっているが、坂道を幼い子どもたちを引き連れ、赤ん坊を背負って裸足で歩きながら豚を追う李香蘭の快活さ、恋人と会うときの華やいだ表情が印象的な映画となっている。

 映画の下敷きとなったのは、1938年の実際に起こった事件。蘇澳近くのタイヤルの集落に赴任していた日本人教員が召集令状を受けて山を降りることになり、集落の人々が荷物を降ろしつつ見送ろうとした。ところが、暴風雨によって増水していた河に当時17歳のサヨンという少女が足をすべらして、帰らぬ人になった。当時の台湾総督府によって「愛国の少女」を生んだサヨンの村に鐘と碑が贈られた。サヨンを称える歌もつくられ、作詞は西條八十、作曲は古賀政男という当時のヒットメーカーが手がけ、人気歌手であった渡辺はま子が歌ったことで『サヨンの鐘』は台湾内外でヒットした。そして、その歌謡曲を下敷きにした映画化されたのである。歌には北京語の歌詞がつけられて、現在も台湾で歌い継がれている。

2007年12月に南投県を訪ねたら、ロケは霧社、特に桜社(現在の南投県春陽村)が中心となったとの話を織物工房のおばさんから聞いた。モーナ・ルダオの碑がある付近であり、映画を観ると昔の風景がそのまま映っていて懐かしくなるそうだ。映画に登場する子どもたちは、ロケ中に近隣の子どもたちを器用しているので、いいおじいさん、おばあさんになっているとか。

 『サヨンの鐘』は各地の名画座などで上映されるほか、ケイメディアからDVDが販売されている。

 

『カミカゼ野郎 真昼の決斗』(台湾でのタイトル『海陸空大決鬥』)

1966年日本・台湾合作作品(製作はにんじんプロ・國光影業)。主演は千葉真一、白蘭、高倉健。台湾の富豪による出資で、深作欣二監督が台南ロケしたアクション映画。カーチェイス場面に、突如原住民が出てくる。悪役の漢民族が「日本びいきの連中だ!」と叫び、逆に日本人と漢民族を見た原住民は「楽しみを忘れた人間たちだ」と話すとか。深作欣二監督がインタビューで語るところによれば、撮影現場は資金不足と出資者たちが出演したがったこともあり相当混乱したらしい。『映画監督 深作欣二』(2003年、ワイズ出版)にはロケ中の写真が掲載されており、パイワンかルカイの女性たちが監督と写っている。TOEI COMPANYから、DVDが2013年に発売されている。(未見)

 

 

『我的名字叫蓮花』(「私の名前は蓮花」)92分

1984年台湾作品。台湾を代表する小説『さよなら、再見』(田中宏、福田桂二訳、1979年、めこん)で知られる黄春明。この作品では原作と監督をつとめている。大自然の中でのびのびと成長してきた主人公の蓮花は、14歳で平地の娼楼に売られる。最初の客は老兵。自分の祖父に同じ傷があると話した彼女に、老兵は孫娘同様に接する。やがて、老兵は訪ねてこなくなり、その友人が老兵の遺書を携えて訪ねてきたときには、すでに蓮花は別の娼楼に売られていた……。「どうして私たちは原住民なの」というつぶやきが重い。(未見)

 

『超級公民』(115分)

 1998年台湾作品。侯孝賢(ホウ・シャオセン)、楊徳昌(エドワード・ヤン)と並び台湾ニュー・ウェーブの旗手と称された萬仁監督が手がけた「超級シリーズ」の一作。主演は、フォーク歌手として知られる蔡振南、アミのシンガーソングライターである張震嶽のほか、陳秋燕。

 出稼ぎ先で蔑視と迫害に遭ったパイワン青年が、耐えかねて殺人を犯したところ情状酌量がなされず死刑になった実際の事件が下敷きになっている。映画は、台湾の民主化と独立を目指していた活動家アドゥ(蔡振南)が主人公。子供を事故で無くした後、政治への情熱も失い、タクシードライバーとなって無気力に働く彼が、殺人を犯して逃げていたマァルウ(張震嶽)を乗せたことから二人の奇妙な関係が生まれる。死刑となった後、マァルウは祖霊に受け入れられず幽霊となってアドゥにひたすらつきまとう。原住民族であるマァルゥとの交流を通して、アドゥは台湾人のアイデンティティを再確認していく。マァルゥは思い残したことをやりとげ祖先の山に帰っていくが、アドゥは……。思いがけない結末に納得する人は少ないのではないか。

映画では、都市を象徴するかのように開通したばかりの都心を走るMRTが、主人公の部屋の前を頻繁に通る。台湾に通い始めたころ「原住民関係の映画があるから」と誘われて、はじめて台湾の映画館で観た映画ゆえに印象に残っている。黙って、パイワンの衣装を着てニマーッと笑う張震嶽の顔も忘れられない。台湾版DVD(英題『Connection By Feat』がYesAsia(www.yesasia.com/global/ja/home.html)などで入手できる。

 

『夢幻部落』(93分)

2002年台湾作品。主演は、タイヤルのユラオ・ユカン(尤勞尤幹)、莫子儀、戴立忍ら。2003年度の台湾映画祭の資料では、「10年前になくした財布を取り戻しに町に降りていくタイヤルのワタン。日本料理店で働きながら、夜ごとテレクラで見知らぬ女からの電話を待つ青年シャオモー。失意と孤独を抱えて彷徨する二人の男の愛と夢が交差する。鄭文堂監督の長編デビュー作」とある。鄭文堂監督は、『超級公民』で脚本を担当している。確かに観たはずの映画なのだが、台湾にもテレクラがあることを知ったことと、アイドル顔のユラオ・ユカン君が、たどたどしく日本語を話す夜の場面の多い暗い映画としか記憶にない。まさしくタイトル通り「夢幻」となってしまった。第59回ベネチア映画祭批評家週間最優秀新人作品賞と第39回金馬奨台湾映画賞を受賞。後に、テレビドラマ版『瓦旦的酒瓶』(『ワタンの酒瓶』)が制作され、公視で放送された。ドラマ版DVDが台湾で入手できる。

 

『等待飛魚』(「飛び魚を待ちながら」)

2005年台湾作品。日本では「アジアフォーカス・福岡映画祭2006」などで上映された。主演はリンダと王宏恩(Biung 別項参照)。台北から蘭嶼に仕事のために来たジン(リンダ)が地元の青年べホン(王宏恩)と出会い、都会と異なる島の生活によって少しずつ人生観が変わっていく様と、互いに気持ちを募らせながらもかみ合わないもどかしさを描いていく。長年ドキュメンタリーを手がけてきた女性監督の曾文珍作品。(未見)

 

 

『山豬 飛鼠 撒可努』(「イノシシ ムササビ サキヌ」)

2005年台湾作品。パイワンで警官をつとめるかたわら作家として作品を書いているサキヌ。陳東亮監督の熱心な勧めで、主役をサキヌが演じたほか、集落の老若男女が映画に出演している。作品に出てくる日本人との戦いの写真は、実際には台湾の北部のタロコを対象に展開された「五箇年計画理蕃事業」で撮られたとされているものでパイワンとは直接関係はないのだが、良くも悪くも現在の台湾原住民族の歴史観を示している。

森に囲まれて育ったサキヌは、幼いころから狩りの名人である父に連れられて山を歩き、狩りの技術や自然について教わってきた。ムササビを狩るとき、「ムササビは幼稚園から大学院まで通う。大学院まで行った奴をつかまえるのは大変さ」というセリフが印象的。やがて、サキヌも一人前の狩人となるが、そんなある日、政府が村の近くに高速道路を建設するという計画が明るみになる。サキヌたちにとって森は生活の一部であり、最も大切な場所。話し合いを開いた長老らは、政府に工事の中止を訴えることを決める。部族の命運をかけて台北へ向かったサキヌはある官僚と出会い、半ば強引に集落に連れて行く。官僚は集落の人々の知恵と歴史に触れ、これまでの自分の生活と娘との関係をふりかえっていく……。

日本では、『賢き狩人』(英題「The sage Hunter」として香港製DVDがYesAsia (www.yesasia.com/global/ja/home.html)などで入手できる。

 

『出草之歌 台湾原住民の吶喊 背山一戦』(112分)

 2005年日本作品。台湾の立法委員である高金素梅氏を軸に、靖国神社と台湾原住民族との関係を描く「ドキュメンタリー」映画。近年の日本映画では、真正面から台湾原住民族を取り上げた作品となっているが、撮影と編集をした井上修氏(監督とはクレジットされていない)が語ろうとする内容をそのまま受け取るにはさまざまな問題がある。政治的な主張の是非はさておき、陳建年や紀曉君(サミンガ)のライブも含め、何組かの原住民族の音楽家のライブシーンが映画に唐突に挿入されるが、これがすべて「台湾原住民族は音楽によって闘う」とナレーションなどで語られてしまっている。これらのアーティストは、高金素梅氏と同じ政治的見解を持っているかどうか、インタビューもないままにひとくくりするのはかなり乱暴な表現ではないだろうか。

 また、公式ホームページで、監督はインターネットで「首を刈る部族は歌がうまい」との故小泉文夫氏の講演記録上で決定的なフレーズを探し当てたから、台湾原住民族の映画を撮ったとのこと。タイトルにある「出草」がいつまでおこなわれ、何のためにおこなっていたのかの説明は十分になされないのは大きな誤解を生むのではないか。それに、その理屈なら、幕末まで戦いや処罰の際に相手の首を取っていた日本人も歌がうまいという話になるのでは。

 さらに、主軸に据えられている高金素梅氏の紹介自体が十分でないのも疑問である。彼女が以前に歌手として芸能活動をし、第43回ベルリン国際映画祭にて金熊賞を獲った台湾出身の李安(アン・リー)監督の『ウェディング・バンケット』(1993年)に重要な役で出演していたことも、映画ではパンフレットの写真で示されるだけである。

企画・制作はNDU日本ドキュメンタリストユニオン、製作は情報工房スピリトン。都内での単館ロードショーの後、自主上映会が開催されている。

 

『ナミィと唄えば』(98分)

 2006年日本作品。現在、石垣島に住む85歳のオバァ、ナミィさんの人生を歌とともにたどる。9歳で身売りされて以来、サイパン、台湾、宮古、与那国、那覇、石垣へとナミィさんの足跡は、そのまま日本の植民地史と重なる。ロケの一部は台東の南王集落でおこなわれ、林清美さん、林豪勲さん(別項参照)らプユマの人々も顔を見せる。本橋成一監督作品。DVDはポレポレタイムス社より発売されている。

 

『チヌリクラン 黒潮の民ヤミ族の船』(93分)

『アラヨの歌』(17分)

2006年作品。映像民俗学や人類学作品を制作し続ける、日本の製作会社ヴィジュアル・フォークロアに当時籍を置いていた英国人青年アンドル・リモンドが監督している。蘭嶼のタオ(ヤミ)と海との関係を取り上げた映像人類学の作品で、ハイヴィジョンで撮影されている。

『チヌリクラン』は、白地に赤と黒で描かれた美しい文様が映える10人乗りの船。木の切り出しから初漁までを、入水式の船長役をめぐる集落の人々の対立を織り込みながら追っていく。『アラヨの歌』は、蘭嶼で神の魚といわれる金色に輝くシイラ漁を、一人の老人のモノローグで描くヤミ版「老人と海」。シイラを釣っていくと、喜んだ奥さんが美しい服を着てシイラを祝福する様子がおかしい。シイラは干物にして吊るしておくと格好良いのだが、実はおいしくないのだとか。両作品とも上映会が催されている。DVDは近日発売の予定。問合せは、ヴィジュアル・フォークロアwww.vfo.co.jp/まで。

作品については同社のサイト内の↓に。

www.vfo.co.jp/theater_document.html#04

 

『奇跡的夏天』(『僕のフットボールの夏』)(101分)

 2006年作品。花蓮美倫国中サッカーチームのひと夏を追った楊力州監督によるドキュメンタリー映画。ドキュメンタリー映画の歴代興行成績を塗り替えた作品である。登場する中学生はアミやタイヤルを中心とした原住民族の少年たち。彼らは3年間寝食を共にして、サッカーの練習に励む。撮影時にアン・リー監督の『ブロークバック・マウンテン』(台湾での公開タイトルは『断背山』)がアカデミー監督賞など総なめにしていたためか、「おい、このままでいくと『ブロークバック・マウンテン』のパート2を撮ることになるぜ」と少年たちは狭い合宿所でじゃれあい、冗談を飛ばす。粉ミルクの会社がスポンサーについたためか、練習途中に皆でいきなりミルクを飲みだす場面がおかしいのだが、合宿や遠征、撮影にはとかくお金がかかる事情も伝わってくる。

ごく普通の公立中学のチームはついに全国大会の決勝戦まで勝ち抜く。そして、迎えた最後の試合の行方は……。奇跡の夏が終わり、それぞれに別の高校に巣立って今度は敵同士になるせつなさまでリズム感ある編集が魅せる。DVDは台湾で入手できる。

 

『海角七号』(『Cape No.7』)(130分)

 2008年8月末に公開されるや破竹の勢いで興行収入が2億台湾ドル超えし、歴代興行成績を塗り替えた大ヒット映画。脇役はほぼ演技経験のない素人で内容的にも地味なこの映画がなぜヒットしたのかがさまざまにニュースで報じられ、これから論じられるだろうけど、ともかく幅広い年代の人々に支持されたのは間違いない。印象的だったのが、公開4週目の平日朝1番に訪れた映画館がほぼ満席で、普段映画館に足を運ばないような80代に近いおばあさんで2割ほど埋まっていたこと。それは、植民地時代の日本人教師と台湾人の教え子との恋と、現代の台湾人男性と日本人女性の恋が錯綜するストーリーと関係しているだろう。

日本人の人気歌手がリゾートホテルでコンサートをすることになり、地元の人々がバンドを組んで前座で歌うことに。都会で挫折した阿嘉(アカ)、交通警察のルカイの父の歐拉朗(オララン)と息子の労馬(ラオマ)、小米酒セールスマンの客家人の馬拉桑(マラソン)、郵便配達一筋の茂伯(マオバオ)おじさん、天才ピアニスト少女の大大(ダダ)、3人の子持ちの女性に夢中な水蛙(スェイワー)に、バンドのプロデュースを頼まれた日本人モデルの友子。台湾南部の屏東を舞台に繰り広げられる、年齢も仕事も違う人々が繰り広げる群像劇と時空をこえた二つの恋が爽やかな印象を残す。クライマックスの場面では、パイワンのトンボ玉も登場する。

主演はアミの歌手范逸臣(Van ファン・イーチェン)に田中千絵、奄美大島出身の歌手である中孝介のほか、梁文音、林曉培ほか。侯孝賢(ホーシャオシェン)の弟子でもある魏徳聖監督が撮った次回作は、霧社事件の映画化である「賽徳克・巴莱」(セデック・バレ、2013年日本公開)。日本では、「海門七号――君想う、国境の南」とのタイトルでDVDが発売されている。

 

もっと詳しく知りたかったら

胡台麗(石丸雅邦訳)「台湾原住民族誌ドキュメンタリーの今昔」、下村作次郎「物語の終焉――映画と教科書の『サヨンの鐘』」2005『台湾原住民族の現在』草風館